生物 科学一般

スバンテ・ペーボ(2022年ノーベル生理学・医学賞)

ネアンデルタール人の遺伝子

現生人類以外の人類も同じ時代にいたんですね。どんな人類ですか?

あきな
みどり

旧人類であるネアンデルタール人は知ってるでしょう。かつてはネアンデルタール人がホモ・サピエンスの祖先と考える説も有力でした。しかし,1997年,マックス・プランク進化人類学研究所スバンテ・ペーボ( Svante Pääbo )らは,フェルトホッファー洞窟で見つかった最初のネアンデルタール人古人骨からミトコンドリアDNAを抽出し、ホモ・サピエンスとの関係を検討したところ,ネアンデルタール人は現生人類の祖先ではないという結論に達しました。

ネアンデルタール人は現生人類並みの脳を持ち,よりがっしりとしていて力が強かったようです。また,彼らはいわゆる文化を持っていたと考えられています。

彼らはなぜ絶滅したのですか?

あきな
みどり

色々な説がありますが,まだはっきりとしたことは言えません。

彼らは数人のグループで生活していましたが,ホモ・サピエンス20人程度の集団生活をしていたと考えられています。そのため集団の中で,知識を共有し,蓄積することで,ネアンデルタール人に打ち勝ったのではないか,という説もあります。

2010年,スバンテ・ペーボらは,ネアンデルタール人上腕骨から核のDNAを抽出して,30億塩基対を超える塩基配列を決定しました。その結果,アフリカ人を除く現生人類には,ネアンデルタール人由来の遺伝子1〜4%混入していると報告しました。

現生人類ネアンデルタール人交雑していたのです。

どっひゃあ。私たちの遺伝子にネアンデルタール人の遺伝子が含まれているんですか?

あきな

デニソワ人

みどり

さらにペーボらはロシアのデニソワ洞窟で見つかった骨のDNA解析から,ネアンデルタール人に近縁の,未知の新種であることを発見し,デニソワ人と名づけました。その後の解析で,現生人類はデニソワ人とも交雑していたことがわかっています。また,2012年にロシアで発見された少女が,母がネアンデルタール人,父がデニソワ人であることもわかりました。

結構いろんな人類と一緒に生きていたんですね。

あきな
みどり

他にも,インドネシアフローレス島で発見されたフローレス人,(ホモ・フローレシエンシス Homo floresiensis)はわずか身長1m ほどの小型の人類で,ホビットという愛称がつけられています。

トールキンですね。

あきな
みどり

最も最近絶滅したと考えられている人類は馬鹿洞人(Red Deer Cave people)です。

バカ洞人!!!! いくら何でも命名が酷すぎません?

あきな
みどり

バカ洞人じゃないわよ。 バロク洞人と読みます。中国では馬鹿は「赤鹿」を意味するそうです。

中国の馬鹿洞老磨槽洞で見つかった化石で,放射性炭素年代測定によって14,500-11,500年前と判定されています。

 

本当につい最近まで色々な人類と共存していたんですね。

あきな

ネアンデルタール人由来の遺伝子と新型コロナ

みどり

さて,維持されている旧人遺伝子の多くは現代人にとって有害であり、生殖能力の低下や高い疾患リスクと関連付けられています。しかし、有益なものもわずかにあります。例えば、EPAS1と呼ばれるデニソワ人由来の遺伝子は、現代のチベット人が極端な高地での生活に対処するのに役立っていると考えられています。また,ネアンデルタール人の遺伝子には、疼痛感受性を高めているものや,ウイルスから身を守るのに役立っているものもある,とされています。

さらに,ネアンデルタール人由来の遺伝子は,新型コロナの重症化にも関わっていることがわかってきました。重症化を引き起こすネアンデルタール人由来の領域ヨーロッパでは最大16%インドバングラデシュなどの南アジアは、なんと最大60%の人がこの遺伝子を受け継いでいるといいます。逆に、日本や中国など東アジアの人々は、この遺伝子をほとんど持っていないそうです。

COVID-19の重症化に関連する遺伝的リスク因子の不均一な世界的分布
みどり

逆にネアンデルタール人由来の遺伝子には重症化を抑制する遺伝子もあるそうです。現代人の12番染色体の上にあり、新型コロナで重症化するリスクを約20%低下させる働きがあるといいます。ペーボによるとこの遺伝子は、アフリカ以外に住む、約50%の人が持っていて,日本人もおよそ30%の人が保有しているということです。

こういった遺伝子の地域的なバラツキが,国別の重症化率の違いに表れている可能性は否定できませんね。

ネアンデルタール人の遺産が我々に影響してるんですね。今回は日本人はネアンデルタール人に感謝したほうがいいのかな?

あきな
みどり

ところで,ペーボの母親はエストニア人化学者カリン・ペーボ(Karin Pääbo)で,彼は母親の苗字を名乗っています。実は彼の父親はスネ・カール・ベリストロームSune Karl Bergström)というスウェーデン人の生化学者で,プロスタグランジンの研究で1982年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。彼は婚外子として生まれたのです。

なんか人類って節操がないですね。昔からなんですね。

人類の歴史は無節操の歴史だったということですかね。

あきな

-生物, 科学一般