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旧暦(うるう月)
旧暦では 29.5 日が1ヶ月でしたね。では旧暦では1年は何日になりますか?
ええと,2ヶ月で 59 日だから,\( 59 \times 6 \) もしくは \( 60 \times 6 - 6 \) だから 354 日です。ずいぶん少ないですね。今の1年より 11 日も少ないです。
そうです。だから 3 年もすれば 1 月分ずれてしまうので,うるう月というのを入れます。年によっては 13 ヶ月ある年もあるのです。
で,そんなにズレる暦では季節の指標にならないし,農業では使い物になりません。そこで幕府の天文方が測定をして,夏至,冬至,春分,秋分を決めます。さらにそれを等分して二十四節気(にじゅうしせっき)や七十二候(しちじゅうにこう)を定めるのです。季節に関してはこちらを使っていたようですね。
立春と節分
立春と節分の関係は?
立春の前日が節分です。実は立夏,立秋,立冬の前日も節分なのですが,昔は暦上の年越しと共に立春も年越しとしてました。だから節分はもう一つの大晦日と考えてもらっていいですよ。それで「鬼は外,福は内」と厄払いをするわけですね。だから年賀状で新春だの迎春だのと書くわけです。
大の月と小の月
そういえば1ヶ月が 29.5 日でしたよね。1ヶ月の日数はどうしていたのですか?
29 日の小の月と 30 日の大の月とありました。どの月が大の月かはその年によって異なります。
江戸の庶民はどうやって小の月か,大の月かわかったのですか?
江戸時代にもカレンダーがあったのですか?
江戸のカレンダー(大小暦)
大小暦というので,大の月と小の月を知るのです。江戸時代のカレンダーはこんなのです。
ん? ただの浮世絵じゃないですか。
干してある浴衣を拡大したので見てください。左袖のところに「大」と書いてあります。袖から胴にかけて,二、三、五、六、八、十の数字が見えます。裾には「メイワニ」と書いてあります。つまり,「明和二年の大の月は二、三、五、六、八、十月」だということを示しているのです。
これは,栄礎(えいそ)という江戸時代の浮世絵師の作品です。赤い帯で大(女性)と小(女の子)が描かれていますね。
大の月(女性) 上から 六、二、八、四、十一、九月
小の月(女の子) 上から 正(一月)、五、十、三、七、十二月
この年の干支は、申(さる)。猿が持っている札は「小の月」。この年の小の月の札が鳥居に貼られています。
このように色々な工夫が凝らされていますね。中には判じ物のような難しいものもありますが,それを読み解くのも庶民の楽しみだったのでしょう。
なんか思ってたのと全然違いますね。これが江戸時代のカレンダーだったのか。
春と spring の違い
さて,もう忘れていると思うけど,話の始まりは「春と spring には違いがあるのか。季節の定義は」だったわよね。
ああ,そういえばそうでした。すっかり忘れてました。
西洋では春分点,夏至点,秋分点,冬至点を基準にします。春分から夏至までの間を春,夏至から秋分までの間を夏,秋分から冬至までを秋,冬至から春分までを冬とします。
それに対し,東アジアでは,昼夜の長短を基準に季節を区分しています。昼が長い時期を夏,夜が長い時期を冬とします。この基準で季節を区分すると,春分を中心として立春から立夏までを春,夏至を中心として立夏から立秋までを夏,秋分を中心として立秋から立冬までを秋,冬至を中心として立冬から立春までを冬と呼ぶことになるのです。
ただ,現在の気象庁は春は3〜5月、夏は6〜8月、秋は9〜11月、冬は12〜2月と公式に定めています。西洋の定義とは 10 日ほどずれているものの,ほとんど重なっています。気象庁と西洋の定義では夏は一番暑い時期に,冬は一番寒い時期に重なっています。現在の我々の感覚に近いわけです。
立春は冬至と春分の真ん中に位置しています。西洋や現代の季節とは1ヶ月半のずれがあるのです。立春は真冬の一番寒い頃,もしくはその直後にあたります。東アジアでは真冬の一番寒いところから暖かくなっていく季節を春と呼んだのです。だから天気予報で,定番の「立春だというのに寒いですねえ」,とか,「立秋だというのに暑いですねえ」というセリフはおかしいのです。正しくは「立春だから寒いですね」,とか,「立秋だから暑いですね」というのが正しいのです。
はあ,そうなんですか。季節の概念がそもそも違っていたんですね。
だから俳句の「季語」なんかも季節がずれていておかしいと感じるのが結構ありますよね。
あれは昔は旧暦を使っていたからだ,と習いましたし,ネットでもそう見ました。
それは違いますね。季節は旧暦ではなくて二十四節気などで決めるものだから。季節の意味が現代とは異なっていたからです。
あきなちゃん,「茶摘み」歌えるかな?
〽︎ 夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは
茶摘じゃないか
茜襷(あかねだすき)に菅(すげ)の笠
八十八夜ってなんですか?
二十四節気など以外に,季節の移り変りをより適確に掴むために設けられた、特別な暦日のことを雑節と言っています。八十八夜もその一つです。他には,節分,彼岸,入梅,半夏生,土用,二百十日,などがあります。
なんか,雑節を見ていたら,おはぎとかタコとかウナギとか,なんかお腹が空いてきました。雑節って美味しい。
八十八夜は,立春を1日目として88日目を指します。種まきや茶摘みの指標となっている日本独自の雑節です。だいたい5月2日 くらいです。「野にも山にも若葉が茂る」はいいとして,「夏も近づく」は季節の感覚としてどうですか?
う〜ん。まだちょっと夏は近づいてないかなあ。
実は八十八夜の3日後の5月5日くらいに立夏がくるのです。昔の感覚では夏が来る直前だったのです。
そうかあ。それで色々と違和感があったんですね。