本多-藤嶋効果
なんかノーベル賞候補の人が研究チームを引き連れて中国へ移るって話題になってましたね。何の研究をしていた方なんですか?
東京理科大学学長をされていた藤嶋昭教授ね。光触媒の研究で有名な方です。
東大工学部の大学院生だったころ,本多健一助教授の指導のもとで水中で半導体に光を照射する実験を行っていました。1967年,酸化チタンが手に入ったので,白金を対極として光を照射したところ,水を分解して酸化チタン電極で酸素が,白金電極で水素が発生しました。水の光分解です。この現象は本多-藤嶋効果と呼ばれています。
$$\require{mhchem}$$ それぞれの電極で起こっている反応は
酸化チタン (\( \ce{TiO2} \)) 電極: \( \ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-} \)
白金(\( \ce{Pt} \))電極: \( \ce{2H2O + 2e- -> H2 + 2OH-} \)
うっ。なんかあまり見たくないものを見てしまった気がします。
電気分解の勉強してればこれくらい大したことないでしょ。
でも最初は結構評判悪かったみたい。学位審査では「こんな怪しげなことを発表していいのか」とか「電気化学をもう一度勉強してくるように」とか言われて結構難航したらしい。後の「常温核融合」とか「高温超伝導」みたいな感じだったのかしらね(高温超伝導は実用化が進められているけど)。でも藤嶋本人は光触媒の産業への可能性を信じていて,学生でありながら特許をとっていたらしいです。
最初はあまり信じてもらえなかったのね。
でも1972年,Natureに発表した論文は今でも数多く引用されていてトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞したくらいよ。
何がそんなに評価されたのですか?
新たな水素エネルギー社会
もちろん,水の光分解という,今までにない新しい現象を発見したことはあります。それだけではなくて,Nature論文発表の翌年,1973年に第一次石油ショックが起こります。その中で光照射だけで水素を生み出せる夢のエネルギーではないかと注目を集めたのです。
で,出来そうなのですか?
結構難しい。まずこの反応は基本的に近紫外線を使う。
あっ,宇宙空間と違って地球上ではオゾン層に遮られて紫外線は少ないですね。
そうね。でももちろん可視光でも反応できる触媒もどんどん開発されています。
ただ,計算をしてみると,酸化チタン触媒は大量に反応を起こさせるのにはあまり向いていないみたい。
光触媒を使えるかどうかというのは,太陽発電でできた電気を使って水の電気分解をした時とどちらが変換効率がいいのか,という比較になります。それを上回ることが必要です。
そうですね。じゃあ,結構厳しいのかな。
もちろん研究者たちは酸化タングステンなどいろいろ頑張ってらっしゃるようだし,この反応を応用して人工光合成に関する研究も進めているようなので,今後に期待しましょう。
ただ,光触媒は既にそれ以外の用途で様々な分野で応用されていますよ。特に新型コロナ関連でも最注目されています。
では,次はそれについてお話しましょう。
ノーベル賞候補の研究者が中国へ 2 へと続く