ベテルギウス
$$\require{mhchem}$$
科学におけるOSINT 3( 場所細胞,格子細胞,トム・クルーズ細胞 ) より
今日はベテルギウスの話です。ベテルギウスって星は知ってるわよね?
オリオン座の赤い星ですよね。オリオンの右肩に当たります。おおいぬ座のシリウス,こいぬ座のプロキオンと共に,冬の大三角を形成しています。
そうね。赤色超巨星といわれるタイプの星です。オリオン座 \( \alpha \) 星で,リゲルがオリオン座 \( \beta \) 星なのですが,リゲルに次いで2番目に明るい星です。もっとも半規則型変光星なので,0.0 - 1.3 等級の間で変光します。リゲルが 0.13 等級なので,明るい時はリゲルより明るくなります。
源平合戦で,平家が赤,源氏が白の旗を使ったことから(紅白歌合戦や運動会の起源),赤いベテルギウスを平家星,白いリゲルを源氏星と言っていたといわれています。
オリオン座の三つ星も属しているオリオン座OB1 アソシエーションに起源を持つとされていますが,秒速約 30 キロメートルの速度で星間空間を移動している逃走星であると考えられています。
ベテルギウスは,従来,地球から約 640 光年ほどの距離にあり,直径は太陽の 900 倍とされていましたが,最近の観測で,距離は 530 光年,直径は 750 倍へと下方修正されました。大きさは,太陽の位置にベテルギウスを置いたとすると木星の軌道ぐらいまで達すると言われていましたが,最新のデータでは火星の軌道程度とされています。質量は,太陽の 20 倍程度と考えられています。
太陽の 20 倍ですか。それだけ燃料があるということは太陽より 20 倍長生きする星ということですか?
いえ,全く違います。
星ができて収縮すると温度が上がり,250 万 K 以上になると水素が核融合反応を起こしてヘリウムになります。基本的に星というのはそのほとんどの期間,水素がヘリウムに変わる核融合反応で光や熱のエネルギーを得ています(主系列星)。水素に代わってヘリウムが蓄積されてくると,重力で圧縮されて温度が上がり,1 億K以上になると,3 つのヘリウム核がトリプルアルファ反応を起こし,炭素原子ができます。\[ \ce{3 \, ^{4}_{2}He \quad -> \quad ^{12}_{\phantom 16}C} \]
やがて核融合反応が進んで重い原子が生成し,最終的には最も安定な元素である鉄 \( \ce{ ^{56}_{26}Fe } \) ができて星の中心部における核融合反応は終了します。そして超新星爆発を起こして一生を終えます。鉄より重い元素は,半分はこの超新星爆発の時 R過程で作られ,残り半分は S過程で作られると考えられていました。最近の東大や京大や理研の論文を見ると,超新星爆発より中性子星合体により,鉄より重い元素ができるという説が有力になってきているみたいです。
核融合で色々な元素ができていく過程では,陽子や中性子の数により核が安定になる魔法数というのがあり,S(Slow)過程や R(Rapid)過程についてもお話しすると面白いのですが,今回はこれ以上はやめておきます。
へえ。鉄が一番安定な元素なんですか。知らなかった。
ところで,太陽は 46 億年前にできたんですよね。あとどれくらい保つんですか。まだ,大丈夫ですよね。
太陽の寿命は 100 億年くらいと考えられています。ちょうど寿命の半分くらい過ぎたところですよね。
実は,星は重ければ重いほど核融合反応が速く進むので,寿命は短くなります。軽ければ長くなります。太陽の半分くらいの重さの星だと寿命は1700 億年くらいです。10 倍重いと 2600 万年,100 倍重いと 270 万年で一生を終えてしまいます。ベテルギウスは太陽の 20 倍の重さだから 1000 万年くらいだと考えられています。で,寿命の最期が近づいているのです。
えっ,星は重い方が寿命が短いんですか? 驚きです。ベテルギウスは 1000 万年前にできたってことは,恐竜の時代には無かった星なんですか?
そういうことになりますね。この 1000 万年の間に目まぐるしく一生を駆け抜け,変化してきたのです。例えば西暦紀元初めの頃,中国では黄色いベテルギウスを観測したといわれています。ということは 2000 年前はまだ赤色超巨星になりかけで,黄色超巨星の段階にあったのかもしれません。
ベテルギウス,超新星爆発を起こすのか
ベテルギウスは,最近,形がものすごく「いびつ」になっていたり,2019 年から 2020 年にかけて,大きく減光して 3 分の 1,1.614 等級まで暗くなってしまいました。それで,もうすぐ超新星爆発を起こすのではないか,とか, 550 光年離れていることから,実はもう爆発しちゃってるんじゃないか,とか,大騒ぎになりました。
ああ,それは覚えています。学校でも話題になりました。
超新星爆発を起こすとどうなりますか? 危険はあるのでしょうか?
明るさは満月クラスと言われているわね。それが面ではなくて点に集中するわけだから,ちょっといつもと違う風景にはなるでしょうね。影はシャープになるだろうし。ベテルギウスの極方向に地球があれば \( \gamma \) 線バーストが直撃するので,まあ人類滅亡は間違いないでしょうね。ただ,極方向とは 20 度ほどずれているようなので,特に問題はなさそうです。
ベテルギウス減光の原因
先生,今日のお題,科学における OSINT なんですけど。
はいはい。これからお話しします。
なぜベテルギウスが減光したのか,その原因を探ろうと世界中で研究が始まりました。しかしながら世界中の天文台,望遠鏡はぎっしり予定が詰まっているので,ベテルギウスばかりに使わせてもらうわけにはいきません。それに現象が終わった後ではもう観測できないしね。
大減光の原因としては、表面温度の低下と、ベテルギウスから放出されたガスからできるチリ(星周塵)が増え、光が遮られる影響の2つがが考えられていました。ただ、チリの量を知るには中間赤外線による継続的観測が必要で、直接的な証拠は得られていませんでした。
いよいよ OSINT ですね。ワクワク。
東大大学院生2人は,2020 年 12 月、ひまわり8号が撮影した地球の画像の隅に月が写り込んでいるという SNS の投稿を発見して,「もしかして,天体観測にもひまわり画像が使えるのでは」と考えたらしいのよ。ひまわり8号は、可視光や近赤外線のほか中間赤外線の観測装置も搭載していてバッチリだったわけ。
ひまわりの画像って,毎日天気予報に出てくるやつですよね。あれに星が写ってるなんて見たことありませんが。
あれは日本付近だけ抜き出してあるからよ。本当の画像は地球全体を撮ってあるの。
静止衛星は赤道上だから当然こういう画像になるわけだけど,国際条約で,日本はひまわりのデータをアジア各国に無償で提供しなければいけない役割があるのよ。
で,彼らは 17年 1 月 ~ 21 年 6 月の4年半分、3日に2回ほどの割合でベテルギウスの観測データを得ることができました。そのデータを用いて,ベテルギウス周辺のちりの量と時間変化を調べ、明るさの変化と比較してみました。すると,大減光の際にちりが増えていることが判明し,表面温度の低下と同じくらい、ちりの増加が減光に影響していることがわかりました。
過去のデータを活用できるってすごいですね。いいアイデアだわ。
他のグループはひまわり画像を使って,月の表面を調べているらしいわよ。
生きているうちに超新星爆発しないかなあ。見てみたいなあ。
東京大カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)とオーストラリア国立大学の最近の研究によると,ベテルギウスは現在ヘリウムの核融合が起こっている段階だと結論づけています。まだこれからヘリウムから生成された炭素の核融合などがこれから進展していくので,ベテルギウスが超新星を起こすまではまだ10万年以上の時間が残っているということです。
残念ながら,我々がベテルギウスの超新星を見ることは難しそうね。