生物 科学一般

生物の色覚の進化 2

霊長類は3色型色覚を獲得した

生物の色覚の進化 1 より

ところで哺乳類の中で霊長類だけ3色型色覚に変化したわけですか?

あきな
みどり

そういうことね。赤を認識するオプシンの遺伝子が変異してわずかに波長の異なる緑を認識できるようになった。前の図を見ると,ヒトのオプシンの波長,赤と緑がほとんど重なっているでしょ。

おそらくまず遺伝子重複が起こり,そのうち1つの遺伝子が変化して緑を認識するオプシンの遺伝子に変化したのでしょう。赤色オプシン遺伝子赤と緑を認識する2種類の遺伝子に分かれたわけ。おそらく霊長類は木の上で生活していたので,緑の葉っぱと赤い熟した果物を認識できる方が有利だったために,3色型色覚を獲得したのだろうと考えられています。
実際木の上で生活している猿では色覚異常2色型色覚)が非常に少なくなっています。テナガザルではゼロチンパンジーでは 0.6 %,カニクイザルなどのマカクでは 0.4 % と報告されています。2色型色覚はほとんど淘汰されてしまっているのです。

でもヒトでは結構,赤緑色覚異常の方が多いですよね。

あきな
みどり

遺伝子的にいうと,同じ X 染色体に極めて相同性の高い2つの遺伝子がのってるわけで,そうすると相同組換えHomologous Recombination )が起きやすいのです。男性では約5%20人に1人の割合で赤緑色覚異常となっています。だいたいクラスに1人くらいの割合。女性だと X 染色体が二本あるので劣勢ホモにならないと色覚異常になりません。女性の場合,発症割合は500人に1人くらいになります。

\( \left( \displaystyle \frac{1}{\;20\;} \right) ^{2} = \displaystyle \frac{1}{\;400\;} \)

だから大体そんな感じですね。でもなぜヒトでは淘汰されないんでしょうか。

あきな
みどり

ヒトは約200万年前くらいにからサバンナに生活場所を変えました。サバンナではライオンなどの肉食動物が隠れていて,そういう動物を見つけるのには2色型色覚のほうが有利だというのです。仲間の中にそういう人がいたほうが有利なので,一定の割合に増えたのかもしれません。

実は,遺伝学会では 2017 年に用語改定を提案しています。遺伝の優性,劣性は顕性,潜性に改定することになっています。また色盲や色覚異常( color blindness )は色覚多様性( color vision variation )と改定することになっています。確かに,もし進化の過程であえて2色型色覚を選択したのだとすると,病気扱いするのではなく,多様性とするほうが正しいのかもしれません。

スーパービジョン 4色型色覚を持つヒト

みどり

ところで,どうも赤色オプシンには2種類あるらしいのよ。、180番目のアミノ酸セリンであるヒトは557nm (赤色) の光を吸収し、アラニンであるヒトは 552nm (橙色寄りの赤色) の光を吸収するんですって。男性は X 染色体が1本しかないから3色型色覚にしかならないけど,女性は X 染色体を2本持っているから一部の女性は4色型色覚を持っているのではないかと言われています。大体1つのオプシンで100色識別できると言われているから3色型色覚のヒトは \( 100 \,  ^{3} \) で100万種類の色を見分けられる計算になります。ところが4色型色覚を持っているヒトはさらに100倍で1億種類の色を見分けられる計算になるのです。4色型色覚を持っているヒトのことはスーパービジョンと呼ばれています。

あれっ,ちょっと待ってください。女性は確かに X 染色体を2本持っています。でもそれは赤色オプシン遺伝子がヘテロになるということですよね。ということは一つの細胞の中で2種類のオプシンが発現するというだけで,4種類の錐体細胞が存在するということにはならないんじゃないですか?赤色オプシンだけが発現している錐体細胞橙色オプシンだけが発現している錐体細胞が無いと区別がつかないと思いますが?

あきな
みどり

あら,鋭いわねえ。よく気が付きました。でもそれは普通の常染色体にのっている場合の話なのよ。X 染色体は特別なの。それを理解するためには X 染色体の不活性化X-inactivation )もしくはライオニゼーションLyonization )と呼ばれる現象について知る必要があります。では次にその話をしましょう。オスの三毛猫がなぜほとんどいないのか,ということにも関係してきます。

はい,じゃ楽しみに待ちます。

で,そのスーパービジョンさんって本当に存在してるのですか?

あきな
みどり

どれくらいの比率でいるのか,論文によって全然予想が違っててどのくらいいるのかはわかりません。2〜3%という論文もあれば,12%という論文もあれば,50%という論文もある。

ただ4色型色覚を持っているとわかっているヒトはまだ数少ないようです。
いちばん有名なスーパービジョンは米カリフォルニア州サンディエゴに住む画家のコンセッタ・アンティコさんだそうです。

アンティコさん

きっかけは、神経学者のウェンディ・マーチン博士のこの一言からだ。マーチン博士はコンセッタさんが主催しているアートクラスに通っていた。そこでどうにも腑に落ちない点があったのでこうたずねたという。
 「なぜ、あなたはこの色を選んだの?」
コンセッタさんはびっくりしてこう答えた。「え?だってこれ、黄色と紫と青でしょ?そう見えない?」と。
それは常人には黄色一色にしか見えないものだったのだ。
 その後の検査で、コンセッタさんは4色型色覚の持ち主であることが判明した。
              あなたは4色型色覚の持ち主か?4色型色覚チェックテスト

コンセッタ・アンティコさん
コンセッタ・アンティコさんの動画

ダウン症候群とはなにかまたは X染色体の不活性化(ライオニゼーション) へと続く

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