生物 科学一般

生物の色覚の進化 1

イカの眼,ヒトの眼

みどり

ヒトの眼って何色の色覚を持っているか,もちろん知ってるわよね。

はい。生物で習いました。まず光の有無を感知する桿体細胞1 億 2000 万個くらいあります。色を認識できる錐体細胞3種類あって, L()錐体細胞,M()錐体細胞,S()錐体細胞で,650 万個くらいあります。( L , M , S は波長がそれぞれ Long , Middle , Short であることを意味している)
色を認識できる錐体細胞は網膜の中心部である黄斑にのみ存在しています。逆に桿体細胞は黄斑にはほとんど存在していません。というわけでヒトが知覚できるのは3色です。

あきな
みどり

はい。いいでしょう。それを3色型色覚といいます。
暗いところで光を感知する桿体細胞は非常に鋭敏で,光子1個でも認識できると言われています。ただ目の中心にはないので,暗い星を見ようと思ったら,その星を視界の端の方に置くのがコツなのよ。

色覚を持っているのがわかっているのは昆虫などの節足動物脊椎動物です。イカタコなどの軟体動物は色覚を持っているという証拠は見つかっていません。(オウム貝は10種類以上の色覚を持っているという話もあります)ただ漁師の間ではイカは色覚があると思われているようです。疑似餌の色によって釣果がぜんぜん違うんだそうです。まあイカの明度の識別が精密なだけかもしれません。

イカタコの眼は盲斑がありません。視神経が我々の眼では眼の前の方に出ているため,どこかで中に入らなければいけません。そこが盲斑になります。それに対してイカタコの眼では視神経が後ろに向かっているため盲斑が必要ないのです。これは眼を形作る過程で,ヒトの眼が脳の突出物からできるのに対し,イカの眼は表皮の陥入からできていることに起因しています。

ダーウィン進化論を発表した時,当然キリスト教側から「ヒトは神がつくった」と反発されました。彼らが根拠とした一つが,「眼のような複雑なものが進化でできたとは考えられない。眼が一つでもなにか要素が欠けたら機能しないではないか」ということだったのです。徐々に進化してできるものではないだろう,というのです。ダーウィンも、彼の著書「種の起源」の中に「学説の難点」と題する一章をもうけて、「眼が自然淘汰で作られたと考えることは、正直いって不合理であると思われる」と書いているほどでした。しかし,哺乳類の眼の,盲点ができてしまうような不合理な進化は,不完全なもので,神が作ったならこんな不完全なものは作らない,と逆に説得材料に使ったのです。

あっ,眼の進化については生物で習いました。昆虫の複眼も,イカの眼も,ヒトの眼も,ものを見るという観点からは同じだが,構造進化が異なっているので,相同器官ではなく相似器官である,と。

あきな
みどり

う〜ん。昔から教科書でも,相同器官と間違われやすい相似器官の例としてあげられてきたりしたわね。でも最近は研究が進んで,どうもそうでもないらしいということがわかってきたのよ。
まず,ヒトで目の欠損をもたらす遺伝病の原因遺伝子\( \mathit {Aniridia\,} \mathrm{ (} \mathit {An} \mathrm{ ) }  \) と,マウスで同様の先天異常をもたらす原因遺伝子\( \mathit {Small eye\,} \mathrm{ (} \mathit {Sey} \mathrm{ ) }  \) ,さらにショウジョウバエで複眼が欠損する変異体 \( \mathit {eyeless\,} \mathrm{ (} \mathit {ey} \mathrm{ ) }  \) の原因遺伝子が単離され,互いにホモログ同じ祖先遺伝子に由来すると考えられる,相同性の高い遺伝子)であることがわかったのよ。
で,この\( \mathit {ey} \) 遺伝子を触角で発現させたところ,そこに複眼が形成されることがわかりました。さらに,マウスの\( \mathit {Sey} \) 遺伝子を同様にショウジョウバエで発現させてみると,驚くべきことに,これまた,発現した場所で複眼を作らせることがわかりました。この結果,この遺伝子は眼の形成を促すスイッチの役割を果たしていることがわかったのです。
さらにイカからも\( \mathit {An-Sey-ey} \) のホモログ遺伝子を単離して,ショウジョウバエに発現させたところ,やはり複眼を形成させることがわかりました。

これらの結果から,頭足類昆虫哺乳類も,眼の構造は異なっていても眼の形成スイッチは共通しており,同じオリジンを持っていることがわかりました。であるなら,これは相似器官ではなく相同器官と考えるべきなのでしょう。

へ〜。研究は進歩しているんですね。それにしてもマウスやイカの遺伝子が普通にショウジョウバエで働くとは驚きです。

あきな
みどり

また,イカタコ青い血をしています。我々の血が赤いのはヘモグロビン鉄イオンを持っているからですが,イカタコは酸素を運搬するのにヘモシアニンという物質を使っています。ヘモシアニンは銅イオンと結びついているため血が青くなるのです。

脊椎動物の色覚

他の動物も全部ヒトと同じ3色型色覚なのですか?

あきな
みどり

いいえ,違います。下の表は様々な生物が,どのような種類のオプシン光センサー分子)を持っているか表にしたものです。桿体細胞が持つ光を感じる桿体型と,色を認識する4種類のオプシン,全部で5種類あります。◎は複数種類持っていることを示します。

 

  赤型 緑型 青型 紫外線型 桿体型
魚類
両生類
爬虫類
鳥類
哺乳類 X X
霊長類
( L , M )
X X
( S )
様々な生物の持つ色に関するオプシンの種類

魚類から鳥類まで基本的に5種類のオプシンを持っているということですか?

あきな
みどり

そうです。哺乳類以外の脊椎動物は基本的に4色型色覚を持っているのです。哺乳類以外の脊椎動物は紫外線を感じることができます。花なんかも紫外線が見えるとずいぶん違って見えるそうです。花の中には紫外線で見える,蜜の在り処への誘導路がある場合もあるとか。
それが哺乳類になって緑型と青型を失い紫外線型が青を認識するように変化しました。哺乳類は基本的に2色型色覚です。

そういえばとかとか白黒だと聞いたことはありますね。
哺乳類は一番進化してると思っていたのにむしろ退化しちゃったんですか?

あきな
みどり

その発言はちょっと進化というものに対する理解が不足してるわね。

それはともかく,哺乳類が誕生した三畳紀は既に恐竜が繁栄してたからね。哺乳類はネズミのような小型の動物で,夜中に恐竜を避けながらコソコソ生きてたらしい。夜活動するから,色なんて必要なかったのよ。光を知覚する桿体細胞のほうが重要だったのね。
鳥とか爬虫類って派手な色してたりするけど,哺乳類ってあまり派手な色してないでしょ。まあ,そういうことよね。
それから犬や牛は白黒ではないですよ。二色型色覚なので赤緑色覚異常のような見え方になっているはずです。

魚類のオプシン

魚類はやたら多くのオプシンを持ってますね。なぜですか?

あきな
みどり

我々は陸上動物だから空気の中で生活してるわよね。だから,あまり光の状態は変わらない。だけどは水の中だから光の様子が様々なのよ。

うなぎサケのように海と川を行ったり来たりする魚は海では短波長のセット,川では長波長のセットというように切り替えるそうよ。網膜上に発現する視細胞を変化させてるらしい。
また,魚の目の網膜の腹側と背側側で発現しているオプシンのセットが違うんですって。上を見るほうが長波長のセット,下を見るほうが短波長のセットが発現しているらしい。たしかに水面を見るのと海底を見るのとでは光環境が全く違うから,使うオプシンが違っても不思議はない気はしますね。

生物の色覚の進化 2 へと続く

-生物, 科学一般