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赤いきつねと緑のたぬき 2

なぜ日本人は green signal を緑信号ではなく,青信号というのか

赤いきつねと緑のたぬき 1 より

みどり

鮮やかさに乏しい色を意味したアヲですが,やがて,遣唐使などで中国から文化が入ってくるようになりました。その時輸入された概念が「陰陽五行説」です。陰陽五行説では,木,火,土,金,水五元素の相互作用で世界のすべてを説明しようというものです。色はその結果,五色,青,赤,黃,白,黒になったとされています。で,アヲには「」という漢字が当てられることになりました。この頃から「色相」でを表現するようになったのだと思われます。

万葉集の時代以前から青は,青と緑の両方の色を指していたと考えられています。「」は新芽」や「若枝」を意味する言葉で,色を意味する言葉としては使われていなかったようです。ある和歌の研究によると、「青(あを)」と「緑(みどり)」の区別がつけられ始めたのは平安時代末期~鎌倉時代(西暦1100年頃)と思われます。

しかしながら緑を青と表現する名残はずっと続いていました。現代でも青野菜,青ネギ,青海苔,青々とした山,といったように緑を青と呼ぶ表現は使われていますね。

青汁も緑ですよね。

あきな
みどり

まずーい。もう一杯。

なんですか?それ。

あきな
みどり

昔は苦くてまずかったみたいね。今はいろんな野菜から作られるようになって,もうまずくはないのでしょうね。あと,緑のリンゴ青リンゴというわね。

リンゴが緑じゃなくて本当に青かったらシンデレラ毒リンゴを食べなかったでしょうね。青かったら本当に毒が入っているような感じがします。

あきな
みどり

まあ,青は一番食欲をそそらない色だと言われてるからね。まあ,青い食材が地球上に殆どないからでしょうね。

日本人は青と緑の色を青と呼んでいた言葉のせいで,脳の中で青と緑の区別がつかなくなっていたなんてことはありませんか? 言葉が逆に脳内思考を支配するというような。

あきな
みどり

それはありません。2016年に,言語を獲得する前の乳幼児に,青と緑の色のグループを区別する脳活動が見られる事が報告されています。赤ちゃんでも認識できるのだから昔の日本人が認識できなかったなどということは有りえません。

そうかあ。いい考えだと思ったんだけどなあ。
でも,どうして日本人だけ青と緑を青と呼んでいたんですか?不思議です。

あきな
みどり

別に日本だけじゃありませんよ。この「緑と青の分化」は、他の言語でも成熟の過程で見られる現象で、例えば英語では13世紀頃までは「 hœwen 」という語が青と緑の両方を指しており、その後 greenblue ( bleu )に分かれた事が知られています(Biggam, 1997)。他民族との衝突が多かったヨーロッパではわりと早めに分化したのでしょう。日本は明治維新後は完全に分かれています。

その名残で青信号と呼ぶようになったのでしょうか。

あきな
みどり

1930年,最初の信号が日比谷交差点に設置されましたが,その時の法令では「緑信号」となっていました。ただ新聞記事などで「」と書かれたため,その後法令も「青信号」と直されることになりました。ちなみに、国際照明委員会(CIE)では、緑の信号灯がとりうる色の範囲の国際標準を「色度」という色の座標で定めていますが、日本の緑信号の灯火はその中でも最も青寄りの色度の光源を採用しているそうです。

そうかあ。最初は「緑信号」だったのですね。

あきな
みどり

色というのは時代を経るにつれて細分化される傾向があるようです。例えば30年前は「」に含まれることが多かった「水色」が完全に独立しつつあると報告されています。また30年前は「草色」と表現されることが多かった「黄緑色」が現在では「抹茶色」に置き換わっているとも報告されています。

なるほど。30年間でも変化するんですね。抹茶色はきっと抹茶味が一般化したからでしょうね。

あきな
みどり

高校生のくせによく分かるわね。

青い空」と「青の空」のような「形容詞」と「色名+の」も対立関係にあってちょっと意味が違うわよね。形容詞のほうが自然です。でもピカソの「青の時代」は「青い時代」じゃおかしいわよね。形容詞型のほうが一般化されてる感じがします。

『「赤い」,「青い」,「黒い」,「白い」という言葉が何を意味しているのか』という問いに対してわれわれはもちろんすぐに,その色をしたものを指し示すことができる.ーしかし,われわれはこれらの語の意味をそれ以上説明することはできない!なぜならそのように指し示す以外には,それらの語の使用についてわれわれは何も思い浮かばないし,浮かんだとしてもきわめて曖昧で部分的に間違った創造しかできないからである (ヴィトゲンシュタイン『色彩について』)。

みどり

では,次の回は生物が進化の過程でどのように色を認識してきたかについて考えてみましょう。

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