ウイルス 医学 科学一般

科学におけるカタストロフィ 1(エラーカタストロフ仮説)

パンデミックの収束

みどり

最近ようやく新型コロナウイルス感染者数が減り始めたわね。なんとか第7波も早く収束してくれるといいんだけど。

この感染者数の推移を見てどう思う?

国内の感染者数の推移(NHKによる)

去年,一昨年とあんなに大騒ぎしていたのに,今年の感染者数と比べるとほとんど誤差レベルに感じられるほど少なかったんですね。驚きです。

あきな
みどり

つまり感染力の大きな変異株に次々に置き換わって,感染力がものすごく高い状態になっているということね。しかも第7波では,報告されていない(本人も気づいていない)感染者がかなり多いと考えられるから,実際にはこれより遥かに多いはずです。

これを見ると今中国でやっているようなゼロコロナ政策はかなり無理があるということが分かるわね。

次に死者数と重傷者数の推移を見てどう思う?

国内の死者数の推移(NHKによる)
国内の重傷者数の推移(NHKによる)

今年は感染者数が圧倒的に多いので死者数が多いのは当然ですが,それでも去年,一昨年の方が,致死率や重症化率がずっと高かったことがわかりますね。感染者数では少なすぎて,去年,一昨年の波ははっきりしませんでしたが,死者数,重傷者数の推移で見ると波がはっきり見えてきました。

あきな
みどり

では,致死率の推移を見てみましょう。

致死率
第1波1.79 %
第2波0.98 %
第3波1.82 %
第4波1.85 %
第5波0.42 %
第6波0.17 %
第7波0.11 %
致死率の推移
みどり

感染率はだんだん高くなって,致死率はだんだん低くなっていることがわかりますね。おそらくそうなっていくことが,パンデミックの収束する時なのでしょう。(もちろん,第8波が来る可能性は十分あります)

今まで新型コロナ対策としてワクチンマスク隔離経済活動の抑制など様々な抑制策をとってきました。致死率や重症化率の低下は,ワクチンや治療法の改善なども考えられますが,ウイルスの変化も大きいのでしょう。

ところで,なぜ感染者数が減少し始めたのでしょうか。
国による封じ込め対策
が功を奏して沈静化してきたのかというと,「感染者数に関して」はどう見てもそういう感じがしません。
前からずっと感じていたのですが,国による封じ込め策と流行の収束にあまり関係があるようには感じられないのです。
なんか新型変異株が勝手に増えて,勝手に減っていっているようにしか見えないのです。

確かに一定のリズムで増大と減少が起こっているように見えます。二ヶ月増大して二ヶ月減少する,そんなリズムがあるような感じ。不思議です。

あきな

エラーカタストロフ(error catastrophe)の限界仮説

みどり

1967年に高速化学反応の追跡方法の研究ノーベル化学賞を受賞したマンフレート・アイゲンManfred Eigen )という生物物理学者が,1971年に提唱した,エラーカタストロフの限界という仮説があります。

カタストロフってなんですか?

あきな
みどり

フランス語ではカタストロフ,英語だとカタストロフィ。どちらも使われます。元々は大災害とか,突然の破局,などを意味している言葉です。
例えば東日本大震災では,長い間,北米プレートが太平洋プレートに押されて歪みが少しずつ蓄積していき,それがあの日に崩壊して大きな地震になりました。これがカタストロフに当たります。

アイゲンの説では,ウイルスが,増殖するにつれて変異が重なっていき,ある限界を越えるとウイルスの生存に不利な機能破綻を起こし,自壊していくというのです。

なるほど。変異が重なっていって,カタストロフが起きてウイルスが自滅していくまでの繰り返しがあの第○波になっていると。

あきな
みどり

RNAウイルスDNAウイルスに比べて変異が速いのです。DNAポリメラーゼ合成酵素)は修復機構を持っていますが,RNAポリメラーゼ合成酵素)は基本的に修復機構を持っていません生物においてはDNAは大切な元本ですが,RNAは使い捨てだからです。

だから天然痘ウイルスのようなDNAウイルスワクチンがよく効き,廃絶することができました。

ただ,インフルエンザウイルスと異なり,コロナウイルスは修復機構を持っています。それで,インフルエンザウイルスほど変異は速くないと考えられています。おそらくコロナウイルス3万塩基他のRNAウイルスの3倍ぐらい長いので,nsp14という修復系が必要だったのでしょう。

免疫不全の患者の体内で,複数の変異が次々と重なっていっているという報告が複数なされています。そういった患者から変異が広がっていっているのかもしれません。

実際,メルク新型コロナ治療薬モルヌピラビルは,複製の際に変異を加速させる働きを持った薬です。

今回のパンデミックは,PCRDNAシーケンサー(塩基配列を決める機械)の発達により,ウイルスの変異を詳細に追える,初めてのケースです。ウイルスの変異で一体何が起こっていたのか,これから詳細に研究が進むと思われます。研究の進展が待たれます。

ウイルスの変異の速さ増幅減少のリズムの周期とは関係ないのでしょうか。

あきな
みどり

あるかもしれません。でもそうそうパンデミックは起こらないので,データを得るのは難しいかもしれません。
もし,ウイルスの変異で何が起こっていたのかが分かれば,コンピュータシミュレーションで再現できるかもしれませんね。

科学におけるカタストロフィ 2(トバ・カタストロフ理論) へと続く

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